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【教育】「することができる語」の蔓延と「ら抜き言葉」撲滅運動の相関性

しばらく前に本を出版しました。

編集者とのやり取りの中で、私が可能の助動詞を使っていた箇所が、すべて「〇〇することができます」に直されていました。初校の時点でそうなっていたので、すべて可能の助動詞に書き戻しました。しかし第二校で「することができます」に変えられていたので、また可能の助動詞に書き戻しました。第三校で「することができます」になっていたのを見て、「そうか、これが現代東京語か!」と思いなおして、可能の助動詞の利用をあきらめました。

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このできごと以来、「することができる」が世の中に蔓延していることを再発見し、驚いています。

「座れる」を「座ることができる」と冗長に言い、長く書き、「行ける」ことを「行くことができる」と冗長に言い、長く書き、「食べれる」と「食べることができる」と冗長に言い、長く書き、、、これはエネルギーの無駄だし、書くために使う紙や鉛筆という資源の無駄遣いです。することができる語の利用には、合理性がありません。道路案内看板の単純明快な「岡山空港」を意味不明で理解に時間がかかる「岡山桃太郎空港」と書き換えるくらいの短慮な言葉の使用です。

小中高生はすることができる語によって文字数を稼ぎ、用紙と鉛筆という資源を無駄使いすれば、あのくだらない読書感想文という宿題が少しでも楽になりますから積極的に使うでしょう。英語で「can」を習った後は、「することができる」と訳せば「おぉ、canの意味がちゃんと分かっているね」と日本語英語ともにあまり上手でない英語教師に認められるので、やはり積極的に使うでしょう。その子たちが大人になってもその習慣を捨てきれずにいるのかなぁ、と思ったりもします。

かくいう自分も、することができる語以外の選択肢があるにも関わらず、することができると口走ったり、書いたりして、冷や汗をかくことがしばしばあります。

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ところで、少し上の記述に突っ込みたくなった人がいるでしょう。そうです、「食べれる」は言語固定論者にいじめられる「ら抜き言葉」です。(万葉集の時代から言語固定論者が世の中の学者の多数派を占めていたら私たちは古文の学習に苦しむことはなかったはずです、、、ということは現代の言語固定論者たちは、未来に向かって対象範囲が増えゆくばかりの「古文」の負担減少のために戦っているのか? 、、、であれば、It’s all too much、なんとも素晴らしすぎるではないですか。)

ここ20年くらいの動きを思い出すと、「することができる語」の普及と「ら抜き言葉」撲滅運動の連動を感じるのです。

統計的に観察したら「ら抜き言葉」撲滅運動が可能の助動詞へのハードルをあげた結果、「することができる語」が普及したのであると数百年後の言語史家たちが両者に相関性を見いだすかもしれませんね。

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さてこの記事を書いたのは、数日前にとてもショックな出来事があったからです。とあることの待ち時間に、久しぶりに対訳版のピーナッツを読んでいました。ところが、かの谷川俊太郎の翻訳に「することができる」を見つけたのです。

ショックを受けて、原文を読み返してニュアンスをしっかりと把握しました。そしてこの場合はたしかに「することができる」が適切であると考えられました。さすがは谷川俊太郎、言葉の時代の最先端を突っ走ってきたのだと、私は一ファンとして思いたいです。

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一時は、ら抜き言葉の撲滅運動家のように「することができる語」の撲滅を目指さねばならないと思ったりもしましたが、谷川俊太郎のおかげで、言葉の力を大切にしながら適切な使い分けを心がければよいと思い直しました。(「することができる語」しか使えなくなってはいけないと思います。)

言葉は変化するものだから変化に抗うこと自体に歴史的意義はありませんが、どうせなら合理的な方向に変化してほしいと切に願います。

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そして、することができる語は、書きたくないのに一定文字数以上を要求される文章執筆に使えば貴重な小中学生の時間を奪う読書感想文の負担を軽減できるメリットはあるものの、日本の津々浦々でみんなが「することができる」とワープロ入力していたら、膨大な時間のロス、膨大な印刷費(紙代、インク代、トナー代)のロスであり、読む人にとっても時間と脳みその無駄遣いであるから、全く合理的な方向への変化ではないと思います。

 

カテゴリー:教育
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